人を祝わば穴二つ

 
2017年7月15日 09:05

「おはよう……」

 
「あらハル君おはようございます、休みの日くらいゆっくり寝てたらいいのに」
 
今日は土曜日。彼は休みの日は決まって10時に起きるから、今日は少し早めの起床でした。彼は寝ぐせのついた髪を手櫛で整えながら寝惚け眼で歩き出しました。今日も可愛い彼。私だけの自慢の彼。今日も私は胸のドキドキを隠しきれません。言うまでもなく、私は彼のことが大好きなのです。
 
 
2017年7月15日 11:15
彼は少し早めのお昼寝を始めちゃいました。連日の仕事の疲れが出ているのでしょうか、やっぱりここ最近帰りが遅かったから。久々の休暇なのだから今日くらいゆっくり寝かせてあげようと思って、私は静かに彼を眺めていました。
 
 
2017年7月15日 12:30
彼が起きてきた、お腹が空いたらしい。お腹が空いて目が覚めちゃうなんて子供みたいで、なんだかそんか彼のことが急に愛おしくなりました。もちろん今に限らず、ずーっと愛おしいわけですが。
 
「もう、お腹すいたって子供じゃないんですから。すぐ食べられるしそうめんでいいですか?」
 
「おっ、いいじゃん。夏らしいねぇ。」
 
今日のお昼ごはんはそうめんで決定。なぜなら彼がいいじゃんって言ったから。自分で言うのもなんだけど、私は本当に彼一筋だなって、そう思いました。
 
 
2017年7月15日 14:09
お昼ご飯を食べ終わってすぐのこと、彼の携帯に電話が掛かってきて、それから彼は元気がなさそうでした。確かに連日の仕事は大変そうで、今の状況は彼にとって本当に大変だろうけど、基本的に笑顔を絶やさない人なだけに私は心配になってしまいました。
 
「ねぇハル君、何かあったんですか?」
 
「いや、別に何もないよ……。いや何もないって言ったら完璧に嘘だな。明日は日曜日じゃん、まぁつまりは3ヶ月記念日だよな。さっきさ、休日出勤してくれって課長に頼まれちゃってさ……ほんとごめんな。」
 
「もう、ハル君は優しすぎるんですから。私のことを考えてくれてそんなに元気なかったんですか?ふふっ可愛いです本当に。気にしないでいいですから、お仕事頑張ってきてください。でも帰ってきたらその、えっと……その……たくさんお祝いしてくださいね!」
 
彼は本当に優しい。だから彼のことがずっと大好きなんです。ただ優しすぎるがゆえに彼のことが時折心配になってしまいます。本当に彼は大丈夫なのかな?無理をしていないのかな?そんな心配事が私の頭の中を離れないのです。3ヶ月という時間は決して短くないのだから。
 
 
2017年7月15日 20:00
今日の晩御飯はハンバーグです。彼は最近大根おろしを使った和風ハンバーグにハマっているらしいです。本当なら私が作ってあげたいけれど、そういうわけにもいかない。なぜなら彼は優しいから。彼は腕まくりをしながら自分で作ったハンバーグを食卓に並べてる。優しくて温和な彼だけれど、意外と筋肉もあって逞しい、私はそんな彼に抱きしめられたいなぁ、なんて少しえっちなことも考えてしまいながら彼をずっと見つめていました。
 
「お前いつまで俺のこと見てるんだ?早く食べないと冷めちゃうぞ」
 
「ふふ、ごめんなさい。なんだか幸せだなって思ってたんです。」
 
美味しそうに口いっぱい頬張る彼を見ているのがなんだか楽しくて、私はずっと彼を見ていました。さすがにお腹が空いてきちゃった。
 
 
2017年7月16日 00:00
本を読んでいた彼は、その本を閉じて少し照れながら私に、
 
「3ヶ月間ありがとう、たくさん迷惑かけてるけど、そんな俺をずっと見ててくれる君が大好きだよ」
 
と言いました。私は涙が溢れそうになりました。言葉にならない気持ちが次々と溢れ出てきて、こんなにも私を想ってくれている彼が愛おしくてたまらなくなりました。こんな自分でしかいられないことに申し訳なくなったのに、私は笑顔で涙を流してしまいました。
 
「私も大好きです。ってもう、やだ。ふふっハルくんは本当に……私今少し汗くさいかもしれませんよ?」
 
こんなの絶対嫌に決まっています。そうに決まっています。私は苦虫を噛み潰したような顔で彼の返事を待っていました。でも不思議と彼の返事はわかっていたような気がします。優しいですから、優しい嘘つきさんなのですから彼は。
 
「くさいわけないだろ。それに俺……お前の汗の匂い嫌いじゃないぞ」
 
ああやっぱり。なんて優しいんでしょうか彼は。昔から変わらない。大学時代の彼と何も変わらない。本当に優しい、優しすぎるがゆえに自分に嘘をついてしまうそんな彼がそこにいました。
 
「もう……本当かなぁ、嬉しいような嬉しくないような。脱ぎますからあんまり見ないでくださいね」
 
そういって"あいつ"は後ろを向いた。彼は可愛いねって言ってくれました。私に可愛いねって。なんて優しいんでしょう。あいつが後ろを向いてる隙に私に可愛いねって言ってくれる。なんていじらしいんでしょうか。ああ大好きです。あなたが好きで好きでたまらないです。もしあなたが優しくない人ならば、あなたが許すならば、あなたを苦しめるその女を今すぐにでも……。
 
 
 
 
2017年4月3日 
この前、大学時代に好きだった先輩のアパートを偶然見つけました。先輩といっても一度講義で一緒になっただけ、いわば私の一目惚れです。もちろん私はその隣の部屋に引っ越ししました。偶然を装った運命的な出会いの先には、きっと必然という名の幸せが待っているはずです。きっと彼も私の愛を喜んでくれるにちがいありません。
 
2017年4月11日
先輩は私の知らない女とよく一緒にいた。私は先輩のことが好きなのにどうして先輩は他の女と一緒にいるのでしょうか。よく部屋に来るあの女。先輩には不釣り合いです。先輩に似合うのは私しかいません。彼もそんなことわかっているはず。ということはつまり、そっか、彼はつきまとわれているんだ。ストーカー?ってやつかな。もしかすると脅されてるんじゃないかな。ああ、なんて可哀想な先輩。私は彼をいつか助けるために、部屋の壁に穴をあけた。その機会をうかがうために。彼をずっと見ていられるように。
 
2017年4月16日
「……こんな俺だけど、これからよろしくな」
 
彼は私にそう言った。最初は何か他のことを言っていったがそこはよく聞こえなかった。でも絶対今のは私に対する言葉。あんなに優しい笑顔は、私に以外あり得ないでしょ。彼はやっぱり助けを求めていた。ああやっぱり彼は無理矢理付き合わされてるんだ。私しかいない。彼を助けられる人は私しかいない。ただ優しい彼はきっと、こんなことをする最低女のことも考えてあげてるのだろう。無理やりあの女をどうにかするのは簡単。でもそんなこと優しい彼は望まないはず。彼は「これから」よろしくと言ったのだから。きっと自分をうまく助けられるタイミングを探してほしいのでしょう。ふふ甘えん坊な先輩、可愛い。今日がスタート地点です。私と彼の愛の記念日です。私は少しの間、この穴から彼を見守ることに決めた。そしてあの女の魔の手から、いつか彼を助けてあげるんだ。
 
 
 
 
2017年7月16日 02:17
もう見ているだけの生活は疲れた。どうして好き同士で結ばれないんでしょう。この時間は無駄じゃないですか?でもやめない。どうしてって彼が大好きだから。そう、私は彼一筋なんです。彼のアパートの隣の部屋に引っ越ししてきてから3ヶ月。彼をずっと見ていたけれどやはりあの女に脅されているに違いない。今では一緒に暮らしているみたいだ。きっと強制的に。それでも彼は嫌な顔一つしない。なぜなら彼は優しすぎるから。いつか私が救ってあげないといけない。でもまだそのタイミングではない。彼を苦しめるあの女を絶望の底に叩き落すには、まだ準備が足りない。私は不憫で可愛い彼のことを想うと、いてもたってもいられなくて、ゆっくりとゆっくりと服を脱いだ。彼はきっとあんな女じゃなくて私を見たいに決まっているから。触れたいに決まっているから。寝ている彼はきっと、夢の中で壁越しの私を想像している。そんな彼のために脱いであげた。ドキドキする。きっと彼も同じ気持ちだ。私たちの気持ちも知らないで彼と一緒に寝ているあの売女。ねぇ?今どんな顔をしているの?準備が整ったらその顔をぐちゃぐちゃに歪めてあげるからね。私は彼にだけ聞こえるよう小さな声で「私との3ヶ月記念日おめでとうございます、ハル先輩」と囁いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2017年7月16日 02:17
僕は隣の部屋で、反対の壁を見ながら脱いでる彼女を穴から覗いてアイイイイイイとなった。(性的な意味で)